新・旧和み処

 その昔、と言っても七年近く前。錦糸町の程近く、南側の住吉と言う町に住んでいました。首都高速をくぐると、錦糸町の猥雑な雰囲気から一変して下町風情に。昔は大きい括りで深川と呼ばれていたそうです。近くには猿江恩賜公園という広大な公園があり、そこから東には川を挟んでトステムの本社が。住んでいた頃は、目の前で昼夜を問わず地下鉄半蔵門線の工事が行われていて、完成から一年半ほどで引っ越しましたので、余り恩恵を受けなかったんですけど。
 住吉には、チョッとした商店街があり、平日の夕方16:00〜18:00は自動車・バイクを一切遮断してお買い物天国になります。ここの商店街の力が強くて、都営新宿線の両隣の駅、菊川、西大島の前にはそれぞれマックや吉野家があるのに、ココだけは無いという一風変った駅前なんです。しかし、都営新宿線半蔵門線が乗り入れたことによって、駅周辺にも新たな動きが見られてきて、チェーンの居酒屋や、牛○という焼肉屋ができたり。
 現在住んでいるのは、錦糸町からは駅を挟んで反対側のところで、北側です。ここは、両国との丁度境目のところで、駅に行くには錦糸町の方が二、三分早いかという所。どちらの商圏からも遠いこともあって、『陸の孤島』と言われているそうな。それでも、昔の話を聞くと、路面電車が有った頃には電停も有ったそうで。そんな昔話を聞くともなくたまに行くのが、『増美屋』と言う居酒屋。『続・下町酒場巡礼』続・下町酒場巡礼という本に載っていまして。住吉に住んでいた頃読むともなしに読んでいました。引っ越して来て、近くを探索していた頃、ふと偶然入ったお店でした。外からは中が窺い知れない、すりガラス。紺色のノレン。
 入ると殆んどが常連で、賑やかな時もあれば、大体はイイ感じに。木の壁に直接白いチョークで(白墨と言った方が相応しいか)お品書きが書かれていて、それでも足りなくって小さい黒板にも。こちらは頻繁に書き換えられているのかも。
 極めて庶民的な値段で、いつものレモンハイ。突き出しはピーナッツとかお手製のお新香少々、とか簡単な物。ここに来ると、お店の雰囲気に浸りそれだけで気持ち良くなってきます。突き当たり奥には少し小上がりが有って、安っぽい卓が二つ。TVが主のように鎮座しています。本当の奥にはまだお座敷があるようですが、使っているのは一度しか見ていません。
 さて、カウンターの後ろには、壁の向こうに厨房があり、と思っていたらトイレに行った時に見たら後ろにももう一つカウンター。これは実際見て頂かないと上手く説明出来ないんです。
 先日は、そこで少し飲んで、以前良く行っていた、住吉の『高島屋』さんに。このお店もやはり『続・下町酒場巡礼』に載っております。以前住んでいた時は自宅から歩いてもドアToドアで8分程。自宅の隣の隣には別の居酒屋が有ったんですけど、少し歩いてもここが良かったんです。いつも常連さんで一杯で、それでも気持ちの良い接客と、良心的なお値段。突き出しはいつもチョッとしたものですが、料金は取りません。何時だったか、煮込みが食べたくってレモンハイを頼むと突き出しで出て来ちゃって他所で食べた後でお腹が一杯だったので、他に注文できなくって、レモンハイ一杯の分\280(当時。現在値上げして\290!)だけで帰って来たことも。
 いつも柔和な親父さんと機敏なお兄さん(息子さん)。以前行き始めた頃はお母さんも居ましたがいつの間にか、お店には立つことはなくなってしまいました。御元気なんですけど。常連さんの話題は専ら野球、そして土日の競馬。一時期は週、4・5回行ってました。それでも二十年来の常連さん達は殆んどがそんな状態で。続けて二件行きましたが、やはりここが落ち着きます。