だしマニアへの道Part.4・だしの比較

新潟・新発田の地酒・菊水

 醤油の話が続いたのですが、ここでチョイと一休み。だしの話でいきます。コメントを頂いた中で、あご(飛魚)の煮干というのがとても気になっていました。それが今回の夏休みの旅行中、新潟県北部から山形県沖の粟島というところの特産品ということで、アゴの煮干しが道の駅に売られていました。しかしまだ先が長いということと、結構いい値段がしていたのでその場で買うのは控えました。その後鶴岡のヤマザワというスーパーで再び飛魚の煮干しとアジの煮干しも見つけることが出来ました。イワシの煮干しは言わずもがなです。山形は『だし』の王国なのでしょうか?山形県には確かに『ダシ』といわれるキュウリ、ミョウガ、大葉、ナスを中心とした一種独特の調味料というか和え物もありますが関連性は判りません。
 旅の途中では買いたくなかったので、秋田から真っ直ぐ近いルートで帰らずに、回り道をして酒田で再びヤマザワに寄って買って帰って来たのはこういういきさつがあるのです。
 これが今回買って来た飛魚(150g)とアジの煮干し(130g)。飛魚の方は見つけた喜びと思ったよりも値段が安かったので躊躇することなく速攻ゲットしましたが、裏面を良く見ると名古屋のメーカーでした(謎)。アジの煮干しの方は酒田のメーカーでした。共に¥398ぐらいと比較的リーズナブル、残念ながら川口料金所でお金を払う時にレシートを飛ばしてしまったので詳細は不明ですが。
 さて今回はこれらを含む様々なだしをとって比較研究をしてみたいと思います。実際に行ったのはかれこれ一週間以上前です。旅行記と醤油ネタで引っ張ってしまったもので(汗)。
 煮干しは手持ちのイワシを含む3種類、他には干し椎茸、昆布、かつお節、混合節といったラインナップ。写真のようにきちんと計量してから使用しましたが、化学実験的な見地からするとまだまだ甘いですが、まぁこんなもので勘弁して下さい。イワシとアジはそれぞれ20g、飛魚は個体が大きいので計ってみると30gもありました。



 計量してから、イワシとアジは頭とワタ(内蔵)を取り除きました。再計量すると15gとなっていました。飛魚は干す前にワタを取り除いてありました。説明書きをよく読んでみると、砕いてから使用することと書かれていましたので、手でバラバラと砕いて20g分使うことにしました。しかし後から考えると同じ方が良かったかとも思いますがそこら辺は気分ってことで(←ダメヂャン)。頭はどうしようかとも思いましたが、癖のない上品なだしが取れるという噂ですので、頭も使ってみることにしました。飛魚ならではの羽のような胸ビレもそのまま使うことにします。



 計量したそれぞれの煮干しをほぼ同時に水に浸します。計量カップで300mlですから、ひとカップずつ、順番に注ぎ入れて二杯目半カップも同じ順序で注ぐという方法です。そのまま一時間程浸しておきます。その間に以前述べたようにいつものように昆布20gを4000ml(つまり4L)の水からガスに掛けて、一時間煮出します。干し椎茸は300mlの水に20g分浸けて置きました。こちらの方は加熱はしませんでした。
 撮影風景。ほぼ同条件で揃えようと目論んで、テーブルに置く位置、光量も同じようにと上からの照明、器からの距離と三脚をズらさないように気をつけて。しかしながら、ほぼ透明な液体を撮るのは難しく、手前に内容物の記したメモを置いてそこにピントを合わせてから少し向こうに振って、撮影。と終わってから見てみるとどうも器の端にピントが合ってしまっていました。それもそのはず、そのやり方ではダメで、器の左右どちらかにメモを置いてピント合わせをしてから横に水平移動してカメラを振らなければならないことに気が付いたのは全て終わってからのこと。ということであくまでも参考程度に。

 昆布だし100ml。4000mlの内の100mlだからなのか余り色が付いていないように見えますが、薄く緑色掛かっております。一時間掛けて沸騰する寸前まで煮出しているので、香りは出ているんです。実際に味を見てみると、意外なことに甘味がありつつも変な癖もなくさっぱりしていて、昆布の独特の香りがします。これを一応今後の基準としましょう。改めてこうして味わうのも良いものです。
 今度は昆布だし300mlに混合節(イワシ、サバ、むろあじの厚削り)を20g計量して煮出してみました。厚削りですので、直ぐにはだしが出ないしもったいないので、5分ほど弱火で煮出してみることにしました。さすがに、昆布だけのだしに比べると色がかなりしっかり出ています。やや黄色み掛かっている感じです。香りは文句なしに美味そうなだしの香りで、謳い文句の蕎麦屋さんが使っています、の言葉通り蕎麦屋さんの店先を通った時の香りがします。味を見ると甘味がまず先に来て、奥深い味がします。もちろん、塩などの味付けはしておりません。しかしその余韻がしばし続きます。そして僅かながら苦味も致しました。ここら辺はメモをとっておいて良かった点ですね。そして魚の香りが印象に残っています。やはり混合節ということで3種類の魚、皆青みの魚ですからその癖がやや出たのかもしれません。
 お次は干し椎茸のだしです。次の用意をしている内に先に撮ってしまえということです。
 やはり同様に100mlを計量して同じ器に入れました。ここで他と違うのはこれだけは非加熱ということです。水に浸けて置いただけで、結構濃い色が付いてだしが出ているようなんです。一種独特の香りを持つ椎茸のだしですが、嫌いな人はもちろん、これは他のだしと合わせる時にも同量ずつ合わせるのではなく、少し控えめぐらいで丁度良いと思います。以前申し上げたように鰹節や煮干しのイノシン酸、昆布のグルタミン酸、椎茸のグアニル酸といった旨み成分は合わせることで複雑な味わいを作り出すのですが、椎茸単体ではどうでしょうか?
 口に含むと他のだしの材料と同様に素材の香りがしますが、意外なほどに甘味が印象に残りました。干し椎茸は早く戻す際には、水に浸けておくのはもちろん、その水に砂糖を少量入れてレンジで加熱すると早く戻るのですけれども、今回はもちろんそんなことはせずに水に浸けておいただけ。なるほどこれだけの甘味があれば僅かな糖分なら気になることもないでしょう。またやや酸味もあります。非加熱ですから過熱したらそこら辺は変わるのかもしれませんが。
 昆布だし300ml+かつお節10gのだし100ml。干し椎茸のだしを撮影している間に再加熱して熱くなった基本の昆布だしにかつお節を10g入れて火を止めて放置。その間3分ほどでしょうか。厚削りと比べると少ないような気もしますが実際に一般家庭でだしをとる時にこの少ない昆布だしにこれだけのかつお節を入れることは稀だと思います(花鰹カップ一杯相当)。花鰹はふんわりしているので、カサがありますね。色は混合節のものと比べるとより明るい黄色み掛かっています。
 香りはもうワタクシにとっていつもお馴染みの香りです。かつお独特の甘いような香りがして実際味もかつお節ならではの華やいだ甘い味と香りが鼻に抜けていきます。混合削りの時とはまた違った奥行き感を感じます。余韻という点では一歩譲りますが、昆布と合わせているせいもあって非常に奥行きのある味です。
 さてこれから煮干し系に参ります。トップはまず定番のイワシの煮干し20g(実質15g)を300mlの水で出したものを100ml。炒り子(いりこ)とも言い炒ってから使うと風味も増しますが、今回はすっかり忘れていました(恥)。色味はかつお・混合節系には及ばないもののやや黄色み掛かった色が付いています。それぞれ一時間水に浸した後、加熱して充分にだしが出たと思われる時間煮出しました。およそ5分ほどでしょうか。もちろん加熱しているとアクが出てきますのでこれは丁寧に取り除きました。それはかつお節、混合節でも同様です。ちなみに味見をする時は撮影が終わってからやや冷めた状態で、バースプーン一杯分(約10ml)だけを味見しました。全て定量です。
 予想外の甘味に驚きました。色から判断するともっと味わいが物足りないかと思うのですが充分出ています。またハラワタも取っているのですが、独特の苦味が僅かに感じられました。またこれは製造上のことで仕方がありませんが塩気を感じます。他のものでは味付けをしていないのでここら辺は他のだしも同条件で僅かに塩を入れると雰囲気が変わる可能性もあるので再考の余地があるところです。
 アジの煮干し20g(実質15g)を300mlの水で出したものを100ml。これもイワシ同様に煮出してみましたが、やや香りが弱くイワシが5分ほどだったのにも拘らず、こちらはもう少し(7・8分)煮出してみました。以前使った時も思いましたが、良く言えば上品なだし、有り体に言えばやや物足りなさが残ります。薄いのです。塩分が入っていないせいなのかほんの少し魚の香りがするお湯という感じです。メモにも『薄い、弱い、物足りない』と列記されていました。しかしアジの名誉に掛けて弁護するとイワシの塩分を含んだだしの後ということもありますし、その前のだしも昆布にかつお節なんていう殆んど反則みたいなシロモノの後ですからね。これも飛魚同様に砕いて使えば化けるかもしれません。
 さて今回の大本命、あご(飛魚)の煮干し20g(正味)を300mlに浸けて一時間、その後5分ほど煮出しただし100ml。色はまぁそこそこ出ている気がします。香りも悪くありませんので期待が膨らみます。
 口に含んだ瞬間、美味いなぁと思いました。飛魚の独特の風味があるのですけれどそれがちっとも嫌味でないのです。この風味が嫌でなければきっと気に入ることでしょう。そしてもっと『上品で癖が無い、サラリとしている』というイメージでしたが、結構甘味もあり、その味わいは深みもあります。やはり経験した人が言っていた美味しいだしというのは本当でした。小さい頃からかつおだしで育ったワタクシで、正直イワシの煮干し系のだしは、ものによっては合わないと思う時もありますがこれはかなりいけるのではないかと思いました。期待に見事に応えてくれた感じです。
 撮影で残っただしは全て一つにまとめて自家製の手打ちうどんの出汁になりました。先述したとおり椎茸のだしは少しだけにしてバランスを取りましたが。
 結論として、昆布だしは昆布だしでそのままでも結構いけるのは意外でした。もっと昆布を増やして濃くすればそのままで充分かもしれません。椎茸も思いのほか高評価です。また昆布+かつお節、混合節というのはやはり外せない大定番の味わいです。『旨味は足し算ではなく掛け算』というのが頷ける結果でした。煮干し系はこれも大健闘ですが、他のものと組み合わせると更に良くなる可能性を秘めています。それにしてもあごのだしは一度経験してみるのをおススメします。うーむ、だしの世界も深すぎる・・・。