大根を干す日々

かごの中の大根

 秋になると冬支度として、北国では雪で覆われてしまう前に畑の農作物を筵(むしろ)で囲ったり、土の中に埋め込んで鮮度を保つようにして、数少ない野菜を保存すると同時に、漬物にして越冬の準備をする、というのが一昔前の恒例の行事であったようです。今でこそ、流通の発達、冬でもビニールハウスで農作物を作ったりと野菜類に事欠くことは稀になりましたが、保存に関しての先人の知恵というのは、現代においても軽視できるものではないとワタクシは考えております。
 味噌を始め、豆板醤自家製のアンチョビ等といった発酵食品並びに保存食を作ってまいりましたが、今回は大根を干してみることにしました。
 大根というのはご存知の通り、冬場に食べるのが辛味も少なく癖もないので美味しいいのですけれども、と同時に、夏場は値段が高いのですね。8月ぐらいがピークで9月に入り少し値下がりし始め、10月ぐらいからはかなりの良物の大根が格安で手に入れられるようになって参りました。昔、軒先で大根をヒモに括りつけて干しているのも、秋ならではの風景だったように思います。そのイメージに突然目覚めたという訳ではないのですけれど、たくあんを漬けてみようかと情報を集めてみました。 
たくあんは言わずと知れた、大根が主役のお漬物ですけれども、買って食べるものというのが大半の方々の認識になってしまっているのではないでしょうか?かくいうワタクシもその一人ですが、栃木県の那須方面へ行った時に、自家製のたくあんを頂く機会がありました、四年程前のことです。やや塩分がキツかったのですけれども(栃木県北部であれば驚くに当たらない。というのも殆んど東北に近いのでかなり味は濃い目なのが当たり前な地域柄なのです)、これが実に滋味深く美味しいたくあんだったのです。下さった方が自慢するだけあってそれだけでご飯がススむ逸品でした。調べてみると、基本的には大根を干して水分を飛ばし、それを糠漬けしたものという位置付けで、ミカンの皮や鷹の爪といった風味を付ける物を足して、クチナシの実で色付けをしたものというのが伝統的なたくあんの作り方のようです。 これが一日半干した段階の大根。強い日差しに恵まれ、早くもしんなりとして来ているのが判ると思います。たくあんに関しては今現在まだ樽の中で漬け込んでいるので、今回はここまで。まだ味見していないし、漬けてから知ったのですけれども、たくあん漬け自体は結構上級者向けの漬物であるという記事も目にしたので、成功するかどうかは、神のみぞ知るといったところなのです。結果はあと一ヵ月後ぐらいにはなるでしょう。まぁ、こうした発酵食品は仕込んでいる時が面白いので失敗しても諦めのきく範囲でやっていますから。干す期間は10日から2週間というのが宜しいようですが、ワタクシは今回正味9日でした。雨が降る予報があってその夜に大体良かろうと判断して短めで干し上がりにしたのです。

 さて、次なる代物は、割り干し大根です。割り干し大根のハリハリ漬けというのは結構好物の一つに挙げられるのです、ワタクシは。これも基本的には大根を皮付きのまま刻んだものを天日で干し、それを醤油・酢・みりんなどに漬け込むというもの。意外に簡単なものです。相変わらず、立派な大根(2Lサイズ)が¥84と格安で売られているので、2本買って来ました。この晩は早速大根を煮物にしようと思っていたのですが、いちょう切りにした段階で、これを干したものを煮たらどうなるかということの方に興味が移り、煮るのはやめにして干してみました。下段の方は割り干し大根用に縦に長く細く切ったものです。いつも魚の一夜干しに使っている網かごに入れて干してみたのがこの写真です。
 
 3日の朝に干し始めて、5日の朝の状態。干したままで部屋の中には入れていません。丸のまま、たくあん用に干した時とは比べようもなく水分が飛んでかなり小さくなって来ています。いちょう切りの方はやや厚みもあるのでもう一歩なのですが、割り干しはいい感じです。重なり合う部分がないようにして乾き具合を確かめながらかごの中に広げて置きます。

 こちらは割り干し大根。やや黄色みがかって、太陽の恵みを一杯に受けております。大根というのはその93%が水分といわれていますので、干すとこんなに小さくなるのですね。元はといえば、鉛筆ほどの太さに切っておいたのですが。醤油・みりん・酢、鷹の爪を鍋に入れて火に掛けて加熱し、冷ましたものにこれをサッと洗って(干す間に付着していると思われる土やホコリの除去)、一晩経てば食べられるようです。色々な分量のレシピがあるのですが、試行錯誤するのも一興です。残念ながら写真を撮り忘れてしまい画像が残っていませんが、やや甘味が足りないように感じたのでほんの少し砂糖を足しました。本当にパリパリと心地よい噛み応えでした。惜しむらくは、余りにも小さくなってしまったので、もっと大きめに切っても良いかもしれません。

 いちょう切りの大根。干し加減はまだ半分といったところ。でもおおよそイメージ通りに仕上がったので、早速煮てみました。油揚げと、調子に乗ってまたこの日買って来た大根の葉の部分を味噌で炊き上げました。一味でアクセントを付けて。 干し上がっていないので、大根はシャクシャクとした歯触りとまでは行きませんが、普通の大根とはまたひと味違った食感です。陽に当てて干すことで甘味が増すようで、栄養的にもカルシウムは元の、生の大根に較べて10倍になるそうです。
 その日買って来た大根は煮物を作りながら、縦に4つほどに切った大根を大根の千切りを作る時に使うピーラーでジャンジャン削っていきます。細長く切れた大根はやはり同様に網かごの中で干します。
 こんな具合です。夜干し初めで、朝でもそれほど水分が飛んだ気配は見せませんでしたが、その日仕事から帰って来るとかなりの干し具合です。やはり大根には太陽光が一番効果があるようです。かなり削ってしまったので、重なり合う部分も多数あったのですが、かなり縮んで来たので、だまになった部分をほぐすようにして広げて、数日間。最初の干し加減が良い具合だった割には、完全に干し上がるには三日ほどを要しました。それもほんの僅かに満足いく仕上がりには及ばないぐらいでしたが、雨が降ってきてしまうので、断念したのでした。干し上がった切り干し大根は大きめのものだったにも拘らず、ご飯茶碗に一杯ほど。干すとこんなにも嵩が減ってしまうものなのかと。
 もう一つ。切り干し用に大根をピーラーで削っていて、余り削り過ぎてしまうと手元が危ないので、ほど良いところで残したものを割り干し用に、今回は大き目に干してみました。前回の3倍はあろうかというサイズで、干し上がったらキッチンバサミで切り分けるという作戦です。切り干し大根用の大根で網かごは埋まっていましたので大きめのザルで立てて干しました。
 最初の数日は具合が良かったのですけれど、やはり大き目のカットが災いしたのかなかなか乾燥せずに、途中で横方向に切れ目を入れてみたのですが、先に述べたように雨の予報で部屋に入れざるを得ない状況になり、見てみるとどうも黒い斑点が出て来ていて、黴てしまったようです。次回はもう少し細めにして干すべきだということでしょうね。