不忍池から再び上野の街へ

上野 韻松亭

 『伊豆栄 梅川亭』を後にして、精養軒の前を進み下り坂を降りていくとこれまた韻松亭(いんしょうてい)という趣のある佇まいのお店があります。どうもこの辺りは絵になるお店が多いようですね。都会の喧騒を忘れてゆっくりとしたひと時を過ごすなんて洒落ておりますね。更に進むと五條天神社という神社があり、どういう訳だかありと聞いたことある製薬会社の名前入りの幟がズラリと並んでおります。医薬の神様が祭られているのでしょうか。

 不忍池のほとりに出ました。それにしてもこの辺りはおよそ東京らしくない緑の多さと、モダンな高層建築がコントラストを成していて古来の建築と緑だけを写そうとしてもそうしたビルが写り込んでしまいます(涙)。上野動物園の閉園時刻なのか、家族連れが一杯。そして夕方になると少し肌寒くなることを見込んでなのか、屋台のおでん屋さんが池のほとりに二軒ほどあり、ここで一杯やるのもたまには悪くないですね。

 案内板によるとすぐ近くに下町風俗資料館というのがあるようなので行ってみたら、あいにく閉館しておりました。16:30には閉館してしまうようで、ここら辺がお役所仕事なんですなぁ、残念。
 つと反対側を見るとこれまたテントが設営されていて何かの市が催されています。今度は何かと思ったら、骨董市です。好きな人にしてみると宝の宝庫に思えるのでしょうが、門外漢のワタクシにとってはまったくのガラクタにしか見えないものから、アジアの仏像などまで幅広く取り揃えられていました。

 見て回るお客さんもやはりこうした物が好きなのか、一種独特の雰囲気を湛えた服装だったりします。ザッとひと回りしてその場を後にしました。それにしても偶然なのでしょうが、こうしたイベントがこの上野の公園で3つも開催されているのに遭遇するなんて驚きでした。たまには公園に行ってみるべきですね。

 公園の前を走る不忍通りを渡ると、またしても『伊豆栄』さんがあります。とは言ってもこちらが本店なのですがね。名前だけは存じ上げていましたが、入ったことはございません。八階建てのビルになっておりまして、てっきり半分より上の方は社長さんのお住まいとかかと思いましたが、写真を見返してみるとどうやらそうでもないようでかなり上の方には見事な藤の花が咲き誇り、ここもお部屋になって居てさすがは270席のお店のようです。

 そうして再び舞い戻って参りました、上野の立ち飲み屋街。やはり昼間に見た時よりも、いささか日が延びましたから薄暮とも言うべきまだ明るさの残る夕暮れですが、電飾の映える頃合となってきて行き交う人の勢いも増しているように感じられます。
 どこへ入ろうかと思案しながら歩いていて、そういえばと思い出したお店がありました。『カズキ』と書いた札を持って街角に立っているおじさんを昼間に見かけたのです。どこにあるのだろうかと訝しく思いながらすっかり忘れていましたが、春日通りに程近い線路の西側にそのお店はありました。早速入っていくとカウンターに通されます。メニューを眺めると意外にそのお値段が高いのに気が付きます。入口にも複数のスタッフはいるし、中も結構な人数。考えてみれば立ちんぼの広告を出したりスタッフの人数を考えれば判ろうというもの。今回は自分の甘さを痛感しつつ、緑茶ハイ¥400を飲み干しつつお替りを勧められるのを体よく断り次のお店へ。

 これまた比較的最近出来たお店の『ちょいのみ アメ横』というお店。御徒町駅を降りるとすぐの、目に付くお店。でもこれもワタクシの認識が甘く、もう一周年を迎えた模様です。まだ入ったことがなかったので、入って見ることにします。

 店内に入るドアを開けながら、得々セットというものを見つけました。ビールもしくはホッピーと煮込みで¥500、またはドリンクとまぐろぬた、いそべ揚げで¥1,000という二通りのセットが選べるようです。それほどまだお腹が空いている訳ではないですし、『にこけん』としては煮込みは欠かせないでしょう。
 お店は縦に細長く、奥行きがあります。入口近くにもL字型の小カウンターがありますが、真ん中に仮設テーブルスペースと、大きいカウンター席もあります。二階では炭火を利用した海鮮焼きが楽しめるようです。

 もつ煮込みがあいにく切れていて、ということでスジ煮込みとホッピーで得々セットの¥500。一人で頂く分には充分な煮込みは大根やニンジン、ごぼうといった根菜類が旨味を吸って良い味わいを醸し出しています。味はチョッと不思議な醤油味でしょうか。味噌のようでもあり塩と醤油のハイブリッドのような気もします。色合いが濃すぎないのですね、これはなかなかです。
 大体、煮込みというのは戦後モツとその食感が似ていることからコンニャクが代用品、また嵩(かさ)増しとして入れられるぐらいで、味噌で煮込んだものが多かったようですが、時代は流れ様々な副材料が投入されて煮込まれるようになったようです。これらをつまんで飲むのは非常に良いつまみになります。中(焼酎)を二杯お替りしてサックリお会計、どうもご馳走様です。

 暖機運転が終わり、エンジンが暖まったところでこれで帰る訳もなく、当然はしご酒ですね。以前訪れてなかなか好印象を持った立ち飲みの『ボヤキ』というお店。御徒町駅を通り過ぎて秋葉原寄りです。っていうか、昼間回ったところまでかなり戻って来ました。すごろくなら『ふりだしに戻る』という感じです。立ち飲みなのですが、椅子も設えてあり低料金でお酒が楽しめるお店です。

 また様々なメニューがあり一例を申し上げると、しょうが天、しらすミョウガ、ニラレバ炒、ユッケ、ポテトサラダ、ゴボウチップス、オニオンスライス、若鶏唐揚、レバ刺、クジラ刺、牛スジ煮込、モツ煮、玉子焼、鉄骨サラダ、さつまスティック、ハムカツ、チーズ揚、タコ唐(以上¥300。但しオニオンスライスを除く)という感じです。
 好物のレバ刺があるというので当然ながら頼みましたが、鶏のレバーですね、こちらは。魔法の粉と胡麻油がデフォルトで掛かっていて、味を誤魔化すようにチョッと醤油を垂らしてみました。

 この日のお通しの落花生をつまみながら串焼が焼き上がるのを待ちます。焼き物は一種二本からというお店もある中、こちらは気兼ねなく一本単位で注文できるようです。一人酒の場合はそういったシバリがあるとキツイのですよね。そういう意味では非常に助かります。ホッピーの中もお替りしてこの日の充実した一日の終わりを楽しんで、帰りもまた大江戸線でサクッと帰ることができました。