牡蠣(かき)の塩辛

自家製 牡蠣の塩辛

 去年の暮れのことであります、突然天恵を受けたが如くイカ以外の塩辛作りを思い立ちました。イカの塩辛は何度も作ったことがあるし、塩辛自体色々と食べてみたい研究材料の1つ。今までイカ以外には、タコ、ホタテ、タラ(チャンジャ)、ほや、オコゼ、鰹(酒盗とは別に)、ホタルイカといったところでしょうか。
 ふと思いついたのは冬が旬の牡蠣。貝類の場合、食あたりが非常に怖いものですが、ウェブで調べると意外とこれもありと言う事が判りました。調べている内に知ったのは秋刀魚の塩辛(これも美味そう)、サザエの塩辛なんて物もあるようです。また山形のある地域ではイカのワタを20%程の塩で覆ってワタの塩辛を作り、それを調味液としてそこにスライスしたサザエを漬け込むという遠大なる手間と時間を掛けた塩辛があるそうで、これも非常に惹かれます。
 今回はある程度ウェブの情報を参考にしましたが、今までの塩辛作りの経験と知識を総動員してオリジナルで作ることにしました。というのも、米麹を使って発酵させるというやり方は確立されているものの、それではやや甘くなることが必至であり、それよりはキリッとした味にしたかったので基本、塩だけで作ることにしました。
※注意:作られる方はくれぐれも自己責任でお願いします。清潔に手を洗って、清潔に洗った道具・容器を使って下さい。

 スーパーの鮮魚売り場で牡蠣の剥き身を買ってきました。ここで注意すべき点は、加熱用と生食用があるので生食用を選ぶということです。これは推測ですが、加熱用と生食用では鮮度が違うと思われるので、少しでも鮮度の良いと思われる生食用を選ぶ方が無難だと思われます。もちろん築地にでも行って信頼の置ける魚屋さんが居れば文句なしなんですが。
 密閉容器に厚めに塩を敷き詰め、直接手で触らないように、そこに箸でこれを並べて置きます。

 隙間なく置いたら上からやはり多めに塩をまんべんなく振ります。目安としては塩焼きをするよりも厚めに、という塩梅です。従って容器を選ぶ基準としてはやや小さめでぎっちり入るぐらいが良さそうです。それに蓋をして冷蔵庫へ(下漬け)。

 これが冷蔵庫に入れて約五時間後の様子。牡蠣は意外と水分が多く、ひょっとすると半分ぐらいが水分で出てしまっているんじゃないかと思うぐらいです。もう一ヶ月も前のことなので忘れましたが、この後六時間経過したあたりで次の工程です。
 パックから取り出して下漬けをしただけなので、実際には牡蠣本体は洗っていません。そこで、海水程度の塩水をボウルに作ってそこに投入し、全体を優しく洗います。手を触れないように(雑菌発生の危険性を抑えるため)、清潔な箸やスプーンを使うと良いと思います。
 その後、ザルに牡蠣を並べて(下に受け皿を何か)また軽く塩を振りました。これは腐敗を恐れたためで、実際にはややしょっぱくなりすぎました。一晩冷蔵庫にそのまま入れておいて、翌朝、受け皿には少しばかりの水分が溜まっていました。この汁と先述の下漬けの汁(水分)はキムチを作る際に使えそうな気がします。なんたって余分な水分であっても牡蠣から出た旨味も含まれていますからね。

 やや表面の乾いた状態の牡蠣を今度は密閉容器に移します。水分が抜けるので下漬けの時に使った容器だと大きすぎる嫌いがあるのでひと回り小さい容器の方がよろしいです。一日に一回程度空気を含ませるように乾いたきれいなスプーンで掻き混ぜ、発酵を促します。これは牡蠣の内臓に含まれる酵素を利用しているので、先に内臓だけを塩辛状に発酵させそこに漬け込むというタイプの人も居ました。しかし今回ワタクシは姿造りにしたかったので同時発酵にしました。
 3日後辺りで掻き混ぜていると匂いが変化し、それまでフレッシュな牡蠣の匂いだったのが、強い匂いに変化してきました。試しに掻き混ぜたスプーン(ワタクシはバースプーンを使用)を舐めて見ると、もの凄くしょっぱくまだ旨味というものは感じられません。急遽追加の牡蠣を買って来てやや低塩にして作り足すことにしました。そして翌朝に二つの時間差の塩辛を合わせて塩分量が馴染むように良く掻き混ぜました。

 作り始めて一週間が経ちました。初めて作るものですから、どうなればOK!というのも判らず手探り状態です。とにかく一週間掻き混ぜ続けてイヤな匂いもしませんし、掻き混ぜたスプーンを舐めて数時間経ってもお腹がグルグルいったりしないので、腐ってはいないようです。

 思い切ってひとつ食べてみることにしました。まだ塩辛さが立ちますが、何とかいけるレベルです。念のため日本酒をほんの少し入れて更に熟成させてみることにしました。そしてもう1つ小分け(3分の1)して焼酎で戻した鷹の爪を細切りにした物を混ぜてもう一種類作りました。
 その後数日してちょっとした事故があったので、本体の方は早めに食べきらなくてはならなくなり友人と共に食べ切り、サブの方が残りました。

 そして約一ヶ月が経ちました。もう掻き混ぜることもなく、ビンの中でたまに振ったりしただけです。ワタの色がかなり染み出してきていて、全体に何ともいえない汁がまとわり付いています。
 匂いは更に強まり、好き嫌いが分かれそうですが、口に含んで見ると腐った感じはしません。これは成功と言って良いでしょう。味を見てみると塩の尖った感じは消え失せて、まろみを帯びてきています。
 箸で汁だけをちょびっと付けて舐めてみると濃い牡蠣の旨味が口に広がります。柚子の皮を千切りにして合わせてもサッパリしそうですが、レモンを絞った時はやや強すぎて合いませんでした。
 時間が掛かりますがこれはなかなかの逸品でした。次はサザエか?