下町巡り・続編〜日の丸酒場〜

山かけ¥300

 さて岩金酒場を出てどこへ行こうかと、思案する間もなく、目の前に横断歩道の向こうに開ける商店街。本当は左(北)に行けばお目当てのお店があるのは判ってはいるのですが、飲兵衛の好奇心をくすぐるこのような商店街を見せられては行かない訳には参りますまい、とばかりに曳舟川通りを渡ってやや暗めの商店街を歩きます。何軒かは営業しているようですが、それほど惹かれるお店は見当たりません。それでもこの先には何かが、という期待を胸に、踏切を越え、このまま戻ると、このつい先に有ったりするんだよなぁと思いながら何もなく大通りに出てしまいました。自分では考えていた通りではなかったのが悔しかったりするのですが。
 それでもそう大筋では間違っていなくて八広の駅前を東西に走る通りに出るとポツポツと魅力的なお店が現れて来ます。丁度高架になった八広の駅の高架の下に一際眼を引くお店がありチョッとパチリ。このお店も良さそうですが、この先に次の目標のお店があるのです。

 それがこちらの『丸好酒場』さん。この手のお店を特集した本、雑誌の類には必ずといって良いほど取り上げられる名店です。もう先日も申し上げましたがこのお店の前も何百回と通りながらも(岩金酒場さんとは同じ通り沿い。つまりグルリと遠回りして辿り着いたのでした)、ここを訪れるのは初めてです。何度も写真で見た店内は、デジャヴのように思いますが、これが本物なのだという思いが高揚感を与えてくれます。しかし現実には、ほぼ満席。詰めてもらえば一人ぐらい入れそうですが、誰一人として動こうなどと殊勝な心掛けのあるものは居なさそうで、また次回に期待することにします。いや実際結構ワタクシ、ガタイがいいもので詰めてもらったところで非常に居心地が悪いのです。
 それならばと先ほど通り過ぎて来たお店に戻ります。
 『日の丸酒場』さんです。『酒の宿』というサブタイトルが何とも泣かせますねぇ^^。大阪の新世界で見つけた『酒の穴』にも匹敵するネーミングです。早速入ってみるとカウンターとお座敷。白い調理服を着たお店の人が四人ほど、広いカウンター内と思い思いの場所に散らばっています。奥には調理場もあり総勢六名ほどでしょうか。

 カウンターに席を決めるとやって来た寡黙な店員さん(チョッと格好いい)にやはり焼酎ハイボールを下町流に『ボール』と言ってみます。すると独特のグラスにエイやっとばかりに炭酸を注ぎ込み、ジンロのボトルに入ったチューハイの素が入った黄色い焼酎を口切り一杯まで注ぎ込みます。氷は無しで、目の前のカウンターで作ってくれるのですが、これがまぁ並々と入っているのでグラスを傾けてこぼしては大変と口がお迎えに上がります。酒の一滴は血の一滴ですからね^^);。
 メニューを眺めるとこれがまた信じられないぐらいのお値段なのです。調理服を着ているお店というのはややもすると値が張る場合が多いのですが、ここに関しては当てはまりません。お酒は一級、二級が有るのが時代を感じさせますねぇ。とりあえず〆鯖を頼んで見ます。
 〆鯖¥300!このお値段でこれだけ来れば上等ではないでしょうか?この日は七切れでしたが充分な量です。一人で飲む客には丁度良い量だと思いました。複数で飲むのならこれを何種類か取れば良いだけですから。それにしても内心これはアタリだなぁとほくそ笑んでいましたが、〆鯖で当たってはいけないので思うだけにしておきます。他の人の注文の品を見ていても安価な割りに量が多かったりで、食指が動きまくりです。とんかつ¥300てのはどんなだろうか?と思いつつ次に何にしようかとしばし。ボールお替りを頼むとさりげなく、そしてキビキビとお替りを作ってくれます。後ろのお座敷にも人が続々やって来て、混み始めます。山かけ¥300というのは長らく飲んで来た中でもお初にお目に掛かりました。写真は撮ったのですが、単なる山芋のすりおろしにしか見えないので割愛。キチンとまぐろの赤身が4切れ入っていて、芋は長芋だとすれば最近出て来た『ねっとり長芋』か本式の大和芋を使用していたようです。これは原価的に厳しいのでは?と老婆心ながら思ってしまいました。お会計してもらうと先ほど(岩金酒場)と全く同じ¥1,160でした。大変満足して、先ほどは入れなかった丸好酒場さんのことなどすっかり忘れて、東に向かいます。
 この通りは、四つ木の先にある都営バス『青戸車庫』から錦糸町を結ぶ都バスの路線でもありますから、記憶を甦らせながら歩いてみることにします。バスに乗っていると結構良い感じのお店があったんです。
 すると間もなく見えて来ました。『伊勢元酒場』さんです。他の場所にも見た記憶があります。平井の方にもありますし、明治通り沿いの亀戸と小村井の丁度中間点近くにもありました。具体的には思い出せませんが他にも見掛けた覚えがあります。不透明なガラス戸の向こうからは楽しそうなさんざめきが聞こえて来ます。
 散歩はまだ続きます。確かここら辺を曲がったなぁと思い出し通りを渡ると、やはり記憶のバス通りです。本当の名は十軒橋通りというのでしょうか。比較的ここら辺からは真っ直ぐに伸びる通りなのです。暫らく歩き続けると又しても伊勢元酒場を発見。本当に多いですねぇ。今度は伊勢元酒場を巡る旅でもしましょうかね^^。

 右手にキラキラ橘商店街のある辺りも認識しつつ、この辺りは四月に記事にはしていませんが歩き回ったところなので、すっ飛ばし更に南に下ります。本当はここが目的地なんだよなぁと思しき踏み切り近くのお店。バスに乗っていた頃にはいつも赤提灯がおいでおいでと誘っていたのですが、営業していませんでした。春に訪れた際にも営業していませんでしたので、もう止めてしまったのでしょうか。こういうお店は早く行かないとどんどん消えて行ってしまうのです(寂)。
 とうとう押上の方にまで来てしまいました。十軒橋通りの名の由来ともなった十軒橋を渡ると浅草通り。これを右(西)に行けば華やかなりし浅草に行くというものですが、いささか疲れて、そろそろ〆にサッパリした醤油ラーメンでも、と思うのですが、時間的にあまりにも掛かり過ぎたためかどの候補のお店も営業を終えていて仕方がないので押上の隠し玉のバー『Stax』さんでしばし休憩。その名の通り、分かる人には分かる音楽のお店なのです。
 ・・・でこれで帰るかと思うとそうでもなく、三連休初日ということもあり、そのままフラフラと歩いて両国の馴染みのバーに飲みに行ってしまったりするおバカさんなワタクシなのです。