ナザール ボンジュウ(Nazar Boncugu)

略してナザボン?

 先日のTFK(トルコ料理研究会)の時に、マエキョンさんからの思い掛けないプレゼントで、『ナザール ボンジュウ』というトルコの魔除けのお守りを頂きました。おもむろにテーブルの上に広げられたストラップの付いたそれは、奇しくもテーブルクロスの模様の一部と同じ様相を呈しており、色違いもありますが、ワタクシが頂いて携帯電話に早速取り付けたのは基本の色使いである濃いブルーのもの。
 これでは何が何だか判り難いので右の写真を参考にして見て下さい。濃いブルーのガラスの玉の中に薄い青い丸と、再び濃い青。これは目玉を模しているそうで、邪悪な視線から身を守ってくれるのだそうです。そして一たび悪いこと、不幸なことが降りかかるとき、このお守りが割れて身を守ってくれるということだとか。何とも鬼太郎の目玉の親父よりも
心強い気がします。
 それにしても邪悪な視線(妬みや恨みの目≒不幸)から守ってくれるのが目の玉というところが個人的に非常に興味深いところで、これが目玉だとするとトルコという国の多様性・地勢的なものも見事に表していることに他ならないような気がします。トルコは現在、御存知の通りヨーロッパと西アジアの架け橋となる地域に位置し、その歴史的変遷の流れに於いても北はロシア、西(南)は北アフリカの現在でいうアルジェ、エジプト全域からを挟んでサウジアラビアの一部、東はイランの方まで勢力を伸ばしていていました。

 我々アジア人種の瞳の色は通常焦げ茶か、それに類した色が主流だと思われますが、ヨーロッパ系ではブルーの瞳は多いですね。ということでこれはその多様な民族を包括していたトルコならではの表現だと思えたのです。実際帰って来てから調べて見るとトルコのみならず地中海沿岸地域で広まっているそうでしたが。
 さて目(を模したお守り)で不幸を跳ね返す、ということを聞いた時にふと思いついたのがギリシャ神話の中で、見つめられるとその人間が石になってしまうという魔物がいたなぁということ。暫らく考えながら話していたんですけど、その場では思い出せず。そう、いわゆるメドゥーサ・メデューサのことです。これが今でいうトルコのお隣のギリシャでの神話であることがポイントなのです。
 ギリシャ神話のそのメドゥーサ・メデューサの神話がこの『ナザール ボンジュウ』の魔除けの信仰に少なからず影響を与えているのではないのかなぁと思ったのです。諺に『毒を以て毒を制す』というのがありますが、メデューサの魔力である目で悪事を退散させようと言うことなのではないでしょうか?
 また、これはその時に話しましたが、かのイギリスの大作家のシェイクスピアの作品のオセロ(オテロ)の中に『green-eyed monster:緑色の瞳の怪物』というフレーズが出て来ます。ワタクシはちっともシェイクスピアは読んだことがないのですけれども、中学校だか高校の教科書に出て来たのです。辞書によると『green-eyed monster』というのは『Jealousy:嫉妬』のことだそうです。それを一つの言い回しとして『green-eyed monster』という表現があるそうです。ブルーの瞳が多い北米・ヨーロッパの中にあっても、緑色の瞳を持った方というのは非常に稀であると聞いたことがあり、小説の中にもしばしば複雑な気質を持った人物像として描かれていることが多いようです。
 アジアではあまり主流ではありませんが、海外のプロフィールなどでは髪の毛の色や瞳の色を記述しているものが多くあります。その中で緑色の瞳もしくは薄いブルーでやや緑色の瞳は『jade』という言い方もあります。『jade』というのは日本でいうところの翡翠(ヒスイ)のことです。
 そうしたことから、目、そして瞳が持つ力、霊力というものに人々は恐れを抱いてきたのかもしれません。何気なく下さったプレゼントですが色々な記憶が思い返され非常に興味深いものでした。