へしこを作ってみた

自家製へしこ

 皆様は、『へしこ』というものをご存知でしょうか?北陸(福井や石川)の名物で鯖(さば)や鰯(いわし)、鱈(たら)、にしん、変わったところではふぐの卵巣なんてものもあるそうですが、これらを米糠、塩、鷹の爪を基本に酒や醤油、みりん等を合わせて漬け込んだものです。一昨年に福井を訪れた際にご当地で初めて食べたものですが、かなりしょっぱいものの、噛み締めると旨味がその奥底から滲み出てくる逸品。
 これの作り方をウェブで『へしこ 作り方』と調べると、へしこを使った料理の紹介のほうが圧倒的に表示されますが、少ないながらも仕込み方が出て参りましたので、作ってみることにしました。

 話は半年程前に遡ります。鯖が基本ですからこれは外せませんが、その時は季節柄、秋刀魚が豊富に出回っていましたので、秋刀魚も追加して二本立てにしました。
 鯖は上野のアメ横仕入れに行き5本買って4本使用*1、秋刀魚は近所のスーパーで5本仕入れました。
 鯖は頭を落として3枚に下ろし、皮を剥いでおきました。これは福井にお友達の居るakikoさんに問い合わせてみると、皮はつけたままで良かったようです。秋刀魚は頭を落としてから内臓を取り除いて、一本のまま。それぞれを密閉容器に入れて塩を多めに振っておき、上から何かで重石を置いて冷蔵庫へ。一週間経つと魚から塩と重石の脱水作用で、写真のように水分が染み出しております。

 それらを、塩水で洗ってキッチンペーパーで水分を拭き取ると、かなり魚体は水分が抜けて締まっております。それらを再び密閉容器に米糠、塩を軽く敷いた上に並べて、上からまた米糠・塩を振り掛け、鷹の爪の代わりに、自家製の豆板醤(辛味噌)作りに購入し大量に残っている韓国産の唐辛子をパラリと。所々に昆布を交えて、魚から染み出した塩水、みりん、醤油を加えて密閉容器が一杯になりました。本当は『へしこ』の語源となったとされる『へしこむ』というように、上から重石を置いてやらなければなりませんが、一杯になってしまったので、これ以上何か入る余地がありません。ですから重石はしませんでした。
 翌朝、水分量が少なかったようなので天地ひっくり返して見ると、底の方までは水分が浸透していないようでしたので、水を火に掛けて沸騰させたあと人肌程度まで冷まして、糠床を作るときに使う塩分量での塩水を作り、加えることにしました。
 糠漬けは糠床をまず最初に作ってから、クズ野菜などを漬け込んで乳酸菌を増殖させてある程度出来た糠床に、野菜を漬けて毎日糠床を攪拌し空気を含ませて徐々に育てていくのに対して、『へしこ』の場合は、糠と塩を使いますが一度仕込んでしまうと、漬けたまま。糠漬けのように床をかき混ぜるという事は一切しないというのが糠漬けとへしこの作り方で大きく違う点のようです。
 また本場では仕込んだ樽の熟成期間には、その染み出す水分・臭いなどに反応してハエ等の発生が懸念されるので、ビニール袋で封をするとありましたので、漏れ出すことも考慮に入れて、スーパーのビニール袋にくるみ、更にゴミ袋にくるんで日の当たらない涼しい台所の片隅に置いて半年熟成させました。

 それから約半年経って、昨日の夜恐る恐る開封してみました。実はこの写真では取り除いてありますが、蓋と床の表面には真っ白いカビの様なものが真ん中辺りにビッシリ発生していました(ショック)。失敗して腐らせたか?と一瞬思いましたが、臭いを嗅いでみると、嫌な酸っぱい臭いではなく発酵したものの独特なニオイであることが判りました。
 そこで、表面の白いものをゴムベラでこそげ取るようにすると、薄くタイルのように剥がれてきましたので、全て取り除いたのがこの状態です。

 指でほじくり出してみると、部分的にまだ糠が水分を含んでいないところもありましたが、おおむね(99%)水分が回っていたようです。それでも予想したよりもシットリ感がなく、パサパサした糠です。鯖、秋刀魚共に重石をしなかったのにもかかわらず、堅くしまった感じです。最初の下漬けで水分が抜けて、糠にも水分が吸われた結果なのでしょうか?
 『へしこ』ではこれを生のまま食べたり、焼いたりして食べるのですがまとわり付いた糠は、そのまま軽く取り除くだけ、という解説もあります。

 しかし、口の中でもそもそと違和感を覚えそうなので、ワタクシは水で洗ってみることにしました。写真を撮った後、包丁で端の方を削ぎ切りにして口に運ぶと、うーむ、しっかりとした塩辛さの奥に発酵した魚の複雑な旨味が広がりました。実に美味いものです。立て続けに3切れ口に運んでしまいました。残念ながら昨晩は禁酒日でした(涙)ので、お酒を合わせられませんでしたが、日本酒がグイグイ進みそうな危険なつまみでもあります。


 熾しておいた炭火で焼いてみました。表面が焦げるほどではありませんが、脂が溶け出して、香ばしい香りがします。堅く締まった感触ですが、中からじんわりと脂が滲み出し、生のままとはまた違った味わいが楽しめます。実はオリナスの地下スーパーで買って来た半額品特売の刺身四点盛り(マグロ、ホタテ、サーモン、イカで¥290!)を焼けるまでにつまんでいたのですが、刺身どころではありません。炊き立てのご飯が進んで仕方がありません。危うく定量を超えてしまいそうなので、急遽刺身を片付けました。

 ほぐした鯖のへしこを載せて、前日に昆布と鰹節で取っておいた出汁を温めてから注ぎ掛けると、へしこのお茶漬けの出来上がり。これまた時間が経つにつれてじっくりと溶け出した脂が出汁に旨味を与えてくれます。ワサビでサッパリとしつつも独特の旨さが楽しめました。
 尚、今回は秋からの半年を掛けて作りましたが、本来は冬(2月頃)に仕込んでから夏の暑さを越して熟成させて作る、との記述が多く見受けられました。

*1:1本は味噌煮にしました